WHAT WE DO
このプロジェクトについて
私たちが目指すもの
海洋文化遺産をめぐる海洋総合知創出プロジェクト
市民参加型手法の開発・実践による海洋関連の法改正を目指して
神戸大学大学院海事科学研究科附属国際海事研究センター准教授 中田 達也
現在、海洋プラスチック問題や気候変動問題といった社会課題が増加してきており、様々な要素が複雑に絡み合う課題を解決するためには、自然科学や人文・社会科学等の科学知と、海洋に関わる人々の様々な“知”を統合した総合知を創出し活用することが重要です。
市民の研究参加推進については「第5期科学技術基本計画」や「第6期科学技術・イノベーション基本計画」でも重要性が謳われています。総合知については、第6期同基本計画において新たに明記され、特に海洋分野については、同基本計画の具体化のために策定される「統合イノベーション戦略2022」で、「海洋分野における観測・研究への市民参加を進め、知の融合により人間や社会の総合的理解と課題解決に貢献する総合知の創出を推進」と記載されるなど、重要性はますます増してきています。さらに、「総合海洋政策本部参与会議意見書~第4期海洋基本計画の策定に向けた基本的な考え方~」においては、「市民が保有する海洋生物や海洋ごみ等の情報を基に、海洋研究者を含めた地域の海に関わる利害関係者間の対話や協働を推進し、地域の課題解決や海洋リテラシーの向上につなげる。このような海洋科学技術における市民参加型科学の取組を進め、持続可能な海洋の構築に向けた総合知の創出を目指していくべきである」と提言されており、市民参加型研究によって総合知の創出を目指すことで課題の解決に加え、海洋リテラシーの向上に繋げることが強く求められています。
国際的にも多様なステークホルダーと連携した研究の重要性が注目されているといえます。2030年を達成目標とする「持続可能な開発目標(SDGs)」への海からの貢献を目指して、UNESCO政府間海洋学委員会(IOC)が取りまとめ、国連総会で採択された「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」において、海洋に携わる研究者や一般市民を含めた多様なステークホルダーが協働し、よりSDGs達成に貢献する海洋科学を推進することが重要であると提言されました。
このプロジェクトでは、海洋に携わる研究者や市民を含む海に関わる多様な人々が協働して、市民参加型研究を実現するとともに、それら研究における総合知創出までの過程をまとめ、エリアや研究対象に依存しない共通性を備えた知見として昇華、海洋文化遺産を媒体とした海洋の総合知を創出するための手法を構築します。
なお、本事業は文部科学省「海洋資源利用促進技術開発プログラム 市民参加による海洋総合知創出手法構築プロジェクト」エリア研究実施チームの公募に応じ、所要の審査を経て採択されたものです。
最初の舞台は、
瀬戸内海
5年(2023年度~2028年度)にわたるこのプロジェクトでは、前半の2年半で、神戸市、兵庫県、大阪府、和歌山県、岡山県、広島県、山口県、香川県、徳島県、愛媛県、福岡県、大分県といった瀬戸内海沿岸の12の地方自治体の市民から5名ずつを選出し、プロジェクトチームの専門家に助言を求めながら、市民が関心を寄せるに至った海洋文化遺産の調査や研究を行います。
その間、年に1度程度のシンポジウムを開催、各エリアごとの成果発表を踏まえた知見を提言します。
瀬戸内は、近畿に都が建てられて以降、物流往来の歴史的な舞台を演じてきました。例えば兵庫や大阪であれば、日本海にも太平洋にも通じて北から南へ様々な文化が拡がったことから、歴史的および地政学的に、多くの遺物が瀬戸内海のみならず、河川や湖沼にもあると考えられます。実際、食や技術・技巧の文化も海を渡って日本に伝播しています。
日本は、古来の人々からすれば、「海辺聖標」(上田篤・工学博士)という表現があるように、まさに海からの視点で人的、物的資源が集まることで、これらが起点となって都市に発展いく歴史を有しているのです。
なぜ瀬戸内なのか?
全国展開後、
国際共同研究へ
後半の2年半では、市民参加による現地調査などを通じて創出された手法を全国展開に結びつけ、日本における海洋文化遺産の周知のために、何が必要か、その方法を確立していきます。
その一方で「海洋文化遺産」、国際的には「水中文化遺産」として一般的に呼ばれる対象をめぐって、国際的にいま何が問題になっているのか、水中文化遺産保護条約の締約国になるメリットは何か、また、そのデメリットは何かという考察に進んでゆく「国際共同研究」につなげていきます。
海洋文化遺産の
法改正を目指す
このプロジェクトでは、地域での議論を全国展開につなげ、同時に国際的な研究の中で日本の水中遺跡に対する周知の拡大手法を確立することにより、水中文化遺産をめぐる国際的な協力とは何か、水中文化遺産をめぐる国際紛争を未然に防ぐためにはどうしたら良いのかを考えます。
そういった研究成果と共に、日本の海洋文化遺産の取り扱いについて、領海内と領海外にどのような差異があるのかを明確にし、将来的な海洋文化遺産保護の為に求められる法制度を提言していきます。